《第283回》『ヒトを変質させるほどの焦がれる想い』
「…………」
「あっ、最後の一枚――」
妾は、鬼になったばかりの理性も何もかも失い暴れていた時を思い出し、すぐそこにあった煎餅の袋を開けつつ思う。
「あの時、最後はどのように決着が着いたのだった? ばりばりむしゃむしゃ」
「き、貴様ァ!? 余が明日食べようと残しておいた固焼きをォ!」
「ん? 食べるか?」
「食べさしをこっちに向けるんじゃないっ! 誰が貴様の口をつけたモノを食うかえ!」
「全く、自分のモノを主張したかと思えば要らんと言うわ、我儘なヤツだな」
「お、横暴という言葉は、貴様のためにあるような言葉じゃな!」
「――んで、どう幕を引いたのだったか、覚えているか?」
「うるさいっ! 貴様なんぞに教えてやりとうないっ!」
むむ、置いてあるからよいモノだと思っていたが、どうにもへそを曲げてしまったらしい。
勝手にヒトのモノを食べてはいけない。肝に銘じておくか。
「大体、そんなことを聞いてどうするのじゃ? 夜貴が鬼になった時、理性を戻すための手がかりでも聞きだそうとでも言うつもりかえ?」
「む――」
「最初に言っておくが、無駄じゃぞ」
「それは夜貴が人間だから、助けたくないと言う意味か?」
「そうではない。相手が敵である貴様であったとしても、ケチなどでは決してない余は、多少のことくらい語ってやるつもりじゃ」
「――つまり、どう言うことだ?」
妾には茶を出さず、自分だけ茶をすする鳴狐は、一呼吸おいてから口を開く。
「いつ終わるとも知れぬ戦い、それがひたすらに続くだけだ」




