《第281話》『狂気』
「何とも、見ない間に変わり果てたものじゃのう呉葉」
「《…………》」
かつて、この場所には一つの大きな屋敷が建っていた。都の中に広い敷地を取った、有力貴族の住んでいる場所だ。
しかし、そんな優美な様相を呈していたその光景は、今や黒ずんだ黒炭の残骸と化していた。ただの一瞬にして広がった炎が、燃え盛り続けることなく廃墟へと変えたのだ。
「《ワタシ、ヨブモノ――ダレ?》」
その中央に佇んでいた、白く、そして黒々とした邪気に覆われた存在。
姿こそ白い少女ではあるが、振り向いたその瞳に、大妖狐の娘は獰猛な獣のごとき殺気を覚える。
「この余の顔を忘れたとでも言うつもりかえ? あれほど貴様と髪の引っ張り合いをした、この藤原 鳴狐の顔を!」
「《ダレ? ダレ? ――ダレデモ、イイ。シネ、シネ、シネ……ッ》」
獣が、ただ覚えた言葉を繰り返しているだけのその様子。強烈な邪気と妖気を感じてここまで来た鳴狐は、そんな腐れ縁の少女の様子に、人間としての理性が失われたのを見た。
「フン。理性を失い、記憶まで吹き飛ぶとは。何とも情けない姿よのう?」
「ニクイ、ニクイ――ニクイニクイニクイニクイニクイアアアアアアアアアアッッ!!」
素早く飛び掛かってくる、「鬼」として覚醒した少女相手に、鳴狐は剣を構えた。




