《第280話》『鬼とは成らせたくない決意』
「たしかに、貴様の言う通りこのまま夜貴が鬼となれば、これから先望めば望むだけ、永遠にも等しい時間を共に過ごせることだろう」
「何だ、分かっておるんじゃのう」
「当たり前だ。――だが、確かに永遠の命を得られたとして、しばらくは強い苦しみを味わうことになるのだ」
「うん? そうなのかえ?」
「お前な――鬼になりたての妾と対峙しておきながら、それを忘れているのか?」
「今、余のことを小馬鹿にしたかえ?」
「いや。大馬鹿にした」
「貴様ァ! 何度余を愚弄すれば気がすむのじゃあッ!」
「あれほどの事態を忘れられる脳ミソの持ち主が、馬鹿でなくてなんなのだ!?」
まあ、そうは言うが実際は忘れていないだろう。確かにドジとか抜けたところは多いが、それでも大妖怪・白面金毛九尾の狐の娘。半分人間の血が混じっていようとも、その持っている妖力はかの大妖狐と比べても引けを取らないと聞く。
頭の良さには関係ない、だと? うむ、全くその通りだ。
「――まあ、あの時の貴様を押さえるのには、本当に苦労したからのう」
「ふっ、そのことだけは感謝してやってもよい」
「むっ! 勘違いするでない、あの時貴様を押さえようとしたのは、余やしもべたちの身が危険に曝されたためじゃ! 断じて、貴様のためではないぞ!」
「それでも、妾の罪が抑えられたことには変わりない」
「むぅ――」
「もっと誇るがいい!」
「んじゃにを偉そうに!?」
「んふぼっ!?」
鳴狐に投げつけられた火の玉が、妾の顔面に直撃。この駄狐め! この美しい顔が台無しになったらどうしてくれる!
――それにしても、鬼となったその時、か。




