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《第278話》『きつねのかくれが』
「おい、なぜ貴様がここに居るのじゃ!?」
その隠れ家を訪ねるなり、九つの狐の尾を不機嫌そうに揺らしながら現れたそいつは、その様子にたがわず不機嫌そうな声でそう言った。
「だって、妾の住んでいたあの家は貴様に酷く荒らされたしなぁ」
「うるさいっ! 帰れっ! しっ、しっ!」
「狐が鬼に塩を撒くとはまた、変な光景だな――」
「だいたい、今の貴様にはあの人間のところがあるじゃろう!」
「察しの悪い駄狐だな。居られぬから、ここへ来たと言うのに」
妾は敵意むき出しの狐――藤原 鳴狐の横をすり抜けるように、奴の隠れ家へと足を踏み入れる。
――と、後ろから。
「ほーほー? 遂に愛想をつかされたのじゃな? やーいやーいざまーみろー!」
とか言うガキ臭い罵倒が聞こえたので、すかさず炎の球を投げつけてやった。
愛想をつかしたのでもない、つかされたのでもない。
ただ、今はどうすれば分からない。それだけなのだ。




