《第277話》『伝説の鬼神、家出する』
「えっ、ナニコレ――?」
ある朝、起きたら呉葉が消えていた。
『夜貴へ。妾、なんだかものすごぉく気分じゃなくなったので実家に帰らせていただきます。探さないでください。振りではありません、探さないでください』
こんな書置きを残して。
「本人はいないからどう言っていいのかわからないけど、ここはツッコミ入れるべき何だろうか――」
主に、実家と言いつつ「探さないで」とか言いだしたあたりが。家出は家出なんだろうけど、何かこう、勘違いしているような感じが――って、そう言う場合じゃないねコレ!?
文章の間の抜けた様子から、ついのほほんとしてしまった! してしまったけど! これって、とんでもない一大事だよね!?
ど、どうしよう――? と言うか、どうしてだろう――? そんな心配が、僕の中で渦を巻く。
これまで意見の食い違うことはそれなりにありはした。だけども、話し合いで充分解決したし、そもそも互いに喧嘩腰になってしまうようなこと自体滅多になかったはずだ。
だから、僕はこの置手紙に動揺せざるを得なかった。
だってそもそも、彼女が家出をしてしまうほど気を悪くした様子が、昨日まで一切なかったのだ。いや、バターを買って戻ってきたら少し機嫌が悪そうだったけど、唐突にそんな様子になるのは今までだって頻繁にあったし、それに僕に対して何か思っているようでもなかった。
――となれば、この家出は前々から考えられていた? だけども、いったいなぜ……?




