《第276話》『光の裏側』
「ただいまー!」
っ、夜貴が帰ってきた――! 元より、バターを買いに行っただけだ、それは当然すぐに帰ってくると言うモノ。
「呉葉、バターあったよ! ――って、全部一人で食べちゃったの!?」
「何? え、あっ!?」
振り返ると、いつの間にかあの幻影狂鬼姫は消えていた。綺麗にパンケーキを平らげた皿だけを残して。
「折角バターを買ってきたのに――」
「むぅ、すまない。つい、匂いに誘われて耐えられず、な」
本当は、妾は一口も食べられていないのだが。本当は、妾は一口も食べられていないのだが。大事なこと故、二度言わせてもらった。本当は三度も、四度も言ってやりたいところだが。
「しょうがないなぁ――まあ、まだ材料あるし、もう少し作ってあげるよ。食いしん坊呉葉のために」
「今更だが妾としては、何故パンケーキを突然作り始めたのかを問いたいところなのだがな」
純粋で、突き抜けた気持ち――改めて思うと小っ恥ずかしいが、それが呼ぶ妾を守ろうとする気持ち。そこにカオルを害さねばならない必要性、傷つける意志と言うくらい色が一部でも混じってしまったことによる今回の異変。
元の気持ちが、執念が強すぎるがゆえに、鬼の気配を帯び始めかけている夜貴。
――妾を、愛してしまったから、夜貴は……。




