《第274話》『鬼と成る』
「ちょっと待て、言っている意味がI don’t knowなんだが」
「別に冗談で言っているわけではない。時々ではあるが、夜貴からは鬼の気配が漂っている」
「――妾は何も感じなかったぞ」
「鬼とは闇に連なる種族。今の貴様より、妾の方がずっと闇に近い存在であることは、他の誰でもない貴様が分かっているだろう」
「そうなのであろうが――納得いかぬな、それはそれで……」
もしゃもしゃ、もしゃもしゃと。全て食べつくす気なのか、と言う疑惑はこの際置いておく。夜貴自身のことの方が、もっと重要だ。
「そもそも、鬼とは。強い怨念から成るモノである、と。そう思っていた」
「うむ。実際に、妾がそうであるからな。――今でこそ落ち着いたが」
「しかし、人生の墓場とも言うべき場所で腰を落ち着けている貴様と異なり自由奔放に活動できる妾は暇つぶしがてらに調べていた」
「ちょっと待てその言い方は聞き捨てならんぞ貴様」
ニヤニヤした顔から考えうるに、言うまでもなくわざとだろう。全く、過去の妾は夜貴から見ればこんな奴だったのか?
「それで一つの推測にたどり着いた」
「フム――」
「鬼とは、強い恨みつらみでなるものではなく――」
…………、
「ともすると、鬼とは強く暗い執念で成るモノなのではないか」




