《第270話》『 ・ 』
いつにも増して、呉葉の言っていることの意味が分からない。
だって、僕は本来の使命を果たそうとしているだけ。
呉葉が本格的に手を出されれば、彼女自身がいかに抑えようとも、古来より従ってきた眷属たちが黙っておらず、この国は文字通り戦場と化す。
そんなことになれば、平和などとは程遠い、炎に包まれた死の国へと国は変貌する。そのような状況へと事態を転ばせてしまうことは、平和維持継続室としても望むべきことではないハズなのだ。
だから、僕は事態を悪化させないためにも、起こったバグを消去しなければならない。
なのに、呉葉は僕が握っている銃を潰してそれを妨げてきた。彼女とて平和を望んでいるハズであるにもかかわらず。どうして?
僕をまっすぐ見つめてくる赤い瞳。不安げに揺れるそれは、今がいかなる状況であっても愛おしい。
僕は呉葉のことが好きだ。大好きだ。この世と言わずあの世と言わず、ありとあらゆるすべての中で一番愛している至高の存在。
「僕」と言う存在を、芯の芯まで包み感じさせてくれる唯一無二の鬼神。
呉葉を守るためなら、僕はこの身が一かけら、血の一滴になろうとも使い削ろう。




