《第268話》『平和と暴力』
「なっ、内密――ッ!?」
「うん、呉葉は悪い鬼なんかじゃないからね。だから、本部に伝える必要はないんだよ」
「っ、何が悪い鬼ではない、ですか――ッ! 妖怪などに良いも悪いもない、人間社会に被害をもたらす害獣! それが奴らであり、その鬼なのです!」
彼、彼女? ううん、やっぱりどう言っていいわからないなぁ。ともかく、カオルさんは教えられたことに忠実であるだけでなく、実体験からもその発言をしているようだった。
「それともなんですか? あなたは、この妖怪に誘惑されたとでも?」
「んー、誘惑――ううん、そうであるとも言えるし、そうでないとも……うーん」
「どちらにせよ、人間にあだなす存在を擁護し守ろうとするあなたは、もはや平和維持継続室に在籍していること自体が不可解です。その鬼もろとも、本部へと連絡して――」
僕は、隠し持っていた拳銃の引き金を引いた。
「――っ!!?」
「っ、夜貴!?」
反応しきれなかったらしいカオルさんの肩に命中。この銃は狼山先輩のロッカーに適当に放り込まれていたモノだが、こっそり拝借していてよかった。
ただ、やっぱり先輩と違ってうまく当てられない。こんなことなら、習っておくんだった。
「夜貴――? いったい、何を……?」
「うん? 見たまんま、撃ち殺そうとしたんだけど」
「つ、ついに、に、人間を、撃ちました、ね――?」
「うん、そうだね。平和のためには仕方無いよ」
「平、和――? 人間を、私を、不幸と恐怖に落とした妖怪を守って、何が平和だ――ッ」
ズダァンと、再び拳銃の銃口が火を噴いた。
「そんな君の都合なんて、知ったことじゃないんだけど――」




