《第265話》『鬼神の怒り』
「まあ、何でもよいでしょう」
「――っ!」
そう言うと、カオルさんは腕を振り上げた。直後、すぐに爆発が巻き起こる。
――警戒していたはずなのに、動作が早くて対応できなかった。呉葉との間に割って入る間もなく、僕は余波で吹き飛ばされる。
「う――っ、……ッ、夜貴!」
「職務怠慢な裏切り者よりも、ご自分の心配をなさってはいかがでしょう。今の爆発、ムラがある私の力の中でも、かなりの高威力が出たはずでしょう?」
「――ッ、」
そればかりか、僕はどうやら呉葉に守られたらしい。あちこち煤だらけの彼女に対し、僕は大した怪我を負っていない。
いや、今はそれよりも――、
「職務怠慢、だと――? うちの夜貴が……?」
「あなたが狂気鬼であるかどうかはさておき、目にしたとたんすぐに妖怪であると私は勘づきました。そして、樹那佐さんとも浅からぬ縁であると言うことも」
「…………」
「それを、職務怠慢と言わずなんと言います? 妖怪を滅ぼすべき立場の人間がそれを容認し、そればかりか仲良くしているのですよ? むしろ、背信行為と言われても文句は言えないのではないでしょうか」
カオルさんは、呉葉の様子には気が付いていない。彼も頭に血が上っているのか、それとも、呉葉がそれが外に出てしまうことをギリギリ押さえこんでいるのか。
でも、いつも近くで呉葉を見ていた僕には、雰囲気の変化が分かる。今の彼女は――、
「はっきり断言できます。樹那佐さんは世間知らずの愚者――」
最後まで言いきるまでに、カオルさんが呉葉から放たれた気迫で宙を舞った。
「――妾は、妾自身のことをどれだけ貶されても、泣くに済ませることができる。ある意味で本当である場合もあるし、一方でたとえそれが事実無根の罵倒であっても、文句を言い返せば済む話。そこに暴力までも介在させる必要性は皆無だ。だが――無知蒙昧な輩が、知ろうともせずこの男を蔑むのは、」
ギリギリで踏みとどまられていたダイナマイトの起爆装置が、押し切られた瞬間だった。
「不愉快千万だッッッ!!!」




