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《第262話》『憎悪』
「なるほどな、確かにこのような世界にかかわる者の動機としては取り立てて珍しくない」
「あなたのような妖怪であれば、きっとそう言い捨てると思っていました。ですが、私個人にしてみれば、180度世界が反転する事件なのです」
カオルさんは、幻影呉葉を睨みながらそう言った。確かに、今まで僕が話してきたヒトたちも、似たような境遇の者は多い。
「憎しみ、か――」
「呉葉――?」
隣の呉葉が小さく呟く。
「憎しみは、確かに充分なエネルギー足りうるモノだ。妾も、かつてはそうだった」
「…………」
「憎しみは人を荒ませる。荒んだ心はさらなる闇を作りだす、闇は盲目的に誰かを傷つける」
「盲目的に――」
「そして傷つけたその先――黒い怨念の先に待つモノは……」
いつになく、その声は暗い。カオルさんに、今の彼女は何を見ているのだろうか。
「で、あるならば。その憎しみを永久に持ち続けてみるとよい」
「はい――?」
「その先、己が狙われる闇の立場となる覚悟があるのであればな」




