《第260話》『絡みつく増悪』
「妖怪は滅ぼすべき絶対悪、であるに決まっているでしょう――! さあ、答えました! 早く爆発させなさい!」
カオルさんの顔が、深く暗い憎悪に歪む。澄ました表情が思いだせない程、それは危機迫った様相を呈している。
「ふぅむ――」
「…………」
「足りぬ、な」
「は?」
「足りぬ、と言ったのだ。貴様の奥底から沸き立つ闇、その力ではまだ到底許容しえぬ暗き感情。まだあるのだろう?」
「――ッ!」
ギリギリと奥歯を噛みしめている様子が、ここからでも見て取れた。見え隠れする影を指摘されたためか、ねめつけた瞳はそれだけで誰かを射殺せそうである。
「――夜貴」
「何?」
「今の時代、平和維持継続室の巨大さもあってか、少なくとも嬉々として命を弄ぶ程の極悪な妖怪は滅多におらぬ。妾の部下たちも、表立ってそこまでの行動に出ることは無い。せいぜい、道ですれ違った際に足をひっかけて転ばせるくらいだ」
「それがどうかしたの?」
「例外もいる、と言うことだ。生来の存在が、『人間を極端に害する』ことで成立する妖怪も、世の中にはいる」
「…………」
「古来より生きる妾にとっては珍しい話ではないが――あの類の瞳を、妾はよく知っている」




