《第二十五話》『人知を超えた存在は人暴れしただけで大騒ぎになる』
「呉葉――」
僕はただ茫然と、彼女の消えた場所を見つめる他なかった。
まさか、いきなり怒り出すとは思わなかった。鬼という種族は気性が荒いが、その中でも呉葉は比較的穏やかなほうであるため、その驚きはなおさらだ。
通り名として、「狂鬼姫」などと呼ばれてはいたが、それだって、長い年月を生きてきたためについた尾ひれのようなモノなのだ。呉葉という鬼は、力こそ強大だが、決して話の分からない凶暴な妖怪ではない。
「とりあえず、どうしよ――」
ノびているだけとはいえ、呉葉にボコボコにされた人々を放っておくわけにはいかない。
「いでで――オレは一体……」
「ええっと、ちょっと交通事故にですね――」
「交通事故ォ――?」
「えっと、野球少年たちのボールが、土木作業員たちの作業場に当たって、運悪く爆発してそれによって吹き飛んだ電柱が――ええっと」
「お、おう――?」
今にも汚物の消毒を始めそうなモヒカンの青年に、僕は暗に人知を超える存在にやられたわけではないと伝える。こう言う時、某エイリアン取り締まり映画のような、ピカッとやる道具があれば便利なのだろうが。
「――ハァ」
僕はなれない場を収めるという作業に苦心しながらも、呉葉のことを想う。
彼女は、僕にとっての呉葉とは何なのかを問いかけてきた。そんなモノ、言うまでもなく決まっている。僕の奥さん以外に無い。
しかし、そんなことは本人が分かっているはずだろう。そんなことを、なぜ今更僕に聞いてくるのか。それが理解できなかった。
そんなところへ、
「あれ!? 後輩、今日休みじゃなかったか!?」
ネロフィ先輩が、この現場へと事態の処理に派遣されて来た。




