《第252話》『序盤からラスボスにエンカウント』
「樹那佐さん、少しよろしいですか?」
「どうしたの?」
手持無沙汰になっているらしきカオルさんは、今しがた仕事を終えた(と言ってもお昼ちょっとすぎたくらいの時間)ばかりの僕のところへとやってきた。
「樹那佐さんは、強力な妖怪、鬼神・狂鬼姫を打ち倒したと伺っています」
「う、うん――それが、どうかしたの?」
「ですが、その鬼神は未だのうのうと生きていると言うウワサも耳にするのです」
「――っ! いきなり、そんなことを聞いてどうしたの……?」
「真偽のほどを、知りたいと思いまして」
鬼神・狂鬼姫は討伐された。勿論、それは表向きの話。当の狂鬼姫、呉葉はそれはもう元気すぎる程毎日を自由に、元気に生きている。
――が、だ。それを知っているのはこの区域に所属している者だけ。当時からここに居る、その全ての職員が、実際は何ら害の無い。鬼神の存在を黙認しているのだ。
ところが、新たに入って来たこの職員はどう考えても本部側の人間。すなわちそれは、彼女が生きていることを知られてはならないことを意味する。
「え、ええっと、うん、一応――ホント、だ、よ?」
「――? 口調が妙にぎこちなくありませんか?」
「い、いやいやいやいやいや!? うん、大丈夫! 倒されたよ! うん!」
カオルさんは疑わし気な目で僕を見てくるが、ここは何としてでも誤魔化しておかねばならないだろう。でなければ、呉葉は、僕達は――、
「おい、樹那佐 夜貴。暇だから、妾が遊びに来てやったぞ」
――突如として、カオルさんとは反対側の立ち位置に、よく知った白い姿の鬼が現れた。




