《第二十四話》『人と鬼』
「ちょっと呉葉、いくらなんでも滅茶苦茶しすぎだよ!」
目の前に積み重なった人々を前に、夜貴は呉葉へと物申す。暴走族や土木作業員、果てはただの野球少年と、彼女の腕っぷしのみで片っ端からノされてしまったのだ。
「無茶苦茶なモノか。こ奴らは、妾と夜貴の大切な時間を奪ったのだぞ? ならば、制裁されるのは当然ではないか」
「あのねぇ――呉葉は一応、僕らの中では討伐されたことになってるんだよ? それを、無理言ってその存在がうちの事務所内でのみ黙認されてるんだ。分かってるの?」
「分かっている。だから、一人も殺していないではないか」
「僕は、こうやって呉葉がヒトを超えた力を大っぴらに振るうことのことを言ってるんだよ?」
「…………」
もしそれで呉葉の存在が上にバレたら、どうなるか分かったモノではないのだ。それこそ、より徹底して潰しに来られるかもしれない。もし両者が本気で激突することにでもなれば、この国は未曽有の大混乱に陥るだろう。
だから――、
「分かっていない――」
「え――?」
「夜貴は、何も、分かっていないッッ!!」
「っ、うわっ!?」
僕は呉葉に突き飛ばされた。吹き飛ばされないあたり、かなり手加減はされているのが分かる。が、それでも、僕をよろめかせるには充分だった。
「夜貴は、妾のことをどう思っているのだ!」
「え、ど、どうっ、て――?」
「監視対象か? それともただの鬼か? 同胞なのか、それとも本当につがいか!? ――妾は、お前が妾のことをどう思っているのか、まるで分からぬ……!」
「呉葉――」
「――こう言う時ですら、はっきりと即座に答えてくれんとはな」
「っ、呉葉!? 待っ――」
「うるさいついてくるなッ!」
「う、く、あ――!?」
呉葉の周囲から、まるで竜巻のように妖気が巻き起こった。あまりに密度の濃いそれは、対妖怪のために修行を積んだ僕でさえ押しのけられるほどに強力だった。
――そして、
視界が明けた時、既に呉葉の姿はそこに無かった。




