《第240話》『母』
「夜貴、妾の胸に飛びこんで来いっ!」
「いい加減反応が飽きられてるかもしれないけど言うね? 藪から棒にどうしたの!?」
小柄な身体を精一杯広げた呉葉。相変わらず、妙に自身に満ち溢れた顔をしている。
「今日は母の日、であろう?」
「呉葉は僕のお母さんじゃないでしょー」
「んなこと言われんでもわかっとるわい」
「じゃあどうして――?」
首を傾げる僕に、呉葉はふっと優しく微笑んだ。
「お前が孤児だからに決まっているだろう?」
「え――?」
「夜貴、お前は母親の顔を知らぬと言っていた。すなわち、母のぬくもりと愛情を知らぬと言うことだ。だから、な――?」
「呉葉――」
「と言っても、妾自身どう言ったモノかはよくわからんが――おっと、これは余計だな」
呉葉は誤魔化したが、僕には彼女が分からないと言った意味が、なんとなく分かる。
鬼になる前から、呉葉は今のような白髪で赤い瞳だった。そのせいで、周囲からも疎まれていた。それが、実の親だけ例外だったとどうして言えよう?
そんな彼女が、分からないなりにも僕のために「母」を演じようとする心意気を見せている。僕は、そんな呉葉の気持ちに応えないわけには――、
「あと、だな」
「うん?」
「なんかくれ! 母の日だから!」
「一瞬で様々なモノを台無しにしてくれたねェッ!?」




