《第233話》『車に使った代金を見たらいつの間にか――by呉葉』
「夜貴、妾をブッてくれ!!」
「ワケ分からないのはいつものことだけど今日もまた絶好調だね!?」
そんな、普段通り狂った鬼神は、手を大きく広げて目をつぶりながら、僕が叩くのを待っているようだった。――ちょっとかわいい。
「待ってよもう。一体全体どうしたのさ? 僕はDVに走るつもりはないよ?」
「これはDVではない! 妾が受けるべき、当然の報いなのだッ!」
「とりあえず、落ち着いて? ね?」
僕は呉葉の頭を優しくポンポンしてあげるが、様子が変わるカンジは無い。
「ひとまず、何をそんなに嘆いてるのか、効かないと僕としてもどうしようもないよ」
「う――正直言って、詳しく話すわけにはいかないのだが……」
「いかないんだ――」
「要約すると、これが無ければ子供の大学までの養育費、その全てを賄うことができたのだ――ッ!」
えーっと、ですね? うん? うーん――そ、そもそも、子供とかはまだ居ないんだけど。
だが、その損失はかなり大きなものだろう。ちらりと聞いた話だと、一般的には子供を育てるのに必要になってくるお金と言うのは、3000万程度。はっきり言ってシャレにならない。と言うか、何? 実は借金まみれなのウチ――?
だが、彼女はどうにも勝手に一人で話を盛り上げてしまうところもある。そのため、これだけ大騒ぎしておきながら、実はたいしたことが無かった、なんて言うことも結構多い。
それに、呉葉ともあろう鬼神が、安易にそんなポカは――まあ、多分しない、と、思う。うん、思う。
「よ、夜貴――?」
なんにせよ、いろんなところが穴だらけ。いつにも増して、話が不透明。これだけで叩こうとか、いや、そもそも何を告白されても叩くつもりなんて無いんだけど。
一応、可能性としてはしょっちゅう修理に出してる車だけど、150万の車を修理に何度と出したところで、いくらなんでも。ねぇ――?
だから僕は、
「えなっ、何を――ふがっ」
さしあたって、携帯電話充電機のプラグを彼女の鼻に刺し込んでおいた。




