《第229話》『音が鳴っている最中に電源を切れば助かることも』
「おはよー」
「うぅむ、おは、よう――」
「うわぁ目ェ真っ赤!?」
朝。寝室からリビングへと入ると、テレビとゲーム機の前でまさに鬼神、悪魔の形相とも言うべき顔の呉葉が鎮座していた。
「――だけじゃない、ヒドイ隈が出来てるよ?」
「う、む――夜通し、やっていたからな。ド○クエの、ナンバリングタイトルを連続全制覇を目指しているのだ」
「ええっと、代表的なRPGの一つだったっけ――?」
「二日前に倒したベホマ破壊神、は、強敵だった、ぞ」
1~10まで出ている、と言う事だけは知っている。と言うか、一昨日からずっと、ゲームをし続けている気がする。食事やお風呂を除き、コントローラーを持ちつつテレビを占領しているのだ。
だが、昨日の朝は今日のようなことになどなっていなかった。流石に限界が来たのかもしれない。
「い、一旦ちゃんと眠ったら――?」
「そ、そんなことをしては、連続制覇にならんでは、ないか――!」
「それよりも健康の方が大切だよ――!」
「鬼神には、例え己の身を犠牲にしてでも、成さねばならぬことがあるのだ――!」
「もっと大きなことで身を削ってよ! ――とりあえず、朝食は食べようよ」
「う、む――腹が減っては、戦は、できん、からな……」
呉葉はゲームを記録して電源を切り中断。それから朝食をいただいて、一睡することもなく再び赤、黄、青、緑のボタンのついたコントローラーを持つ。
でんでろでんでろでんでろでんでろ♪ でろん♪ でろん♪
「お、おおおお、おい――?」
「どしたの?」
呉葉は口を半開きにしたまま、画面を見つめている。
僕も、彼女の見つめているそれに目を向ける。
【おきのどくですが ぼうけんのしょ1は きえてしまいました】




