《第225話》『泣き笑い上戸』
「あー、すまねぇだけんども、あんまりおとんを責めないでやってほしいだ」
「ん、な、こと、言ったって! このままじゃ絞め殺されかねないんだって!」
「そう言う時は、干し柿の匂いを嗅がせると――」
「かーちゃん、かー……ぐがーっ」
「眠っちまうんだべ」
「催眠干し柿とか画期的だね――!」
とりあえず、突然白徳利が寝入ってくれたおかげで解放された。それにしても、見た目以上に太ってるねこいつは。着やせするタヌキか。
「おとんが、お前のことをおかんと間違えたり抱きついたりして悪かっただな」
「全くだよ――アタシはまだまだ若いんだから」
「三十路の飲んだくれにしか見えないべ」
「なんか言ったかい?」
「いんや、なーんも」
ふうりは押し入れから毛布を出すと、それを白徳利にかける。それに気が付いているのかいないのか、タヌキオヤジはぐおーっ、ぐおーっといびきをかき始めた。
「かーちゃん、かーちゃんって言ってたけど、そいつはどこにいるんだい?」
「おかんは――3年前に死んでしまったんだべ。だから、飲み過ぎて酔ってると、おら以外の女にはあんな感じで……」
「――そうかい。すまなかったね」
「いんや。だども、おかんが居れば、お酒もきっと止まっただべなぁ」
「おや、相当怖いタヌキだったのかい?」
「んだ。だどもそれは怒った時だけだ。いつもはキレーな優しいおかんだったべよ。おとんが禁酒してたのも、おかんに言われてからだったっぺ」
「うっ! ますます悪いことした気分だ――」
そんな奴に、割と無理やり気味にあの場では飲ませてしまったため本気で猛省しなければ、と思った。ヒトに説教しておきながら、自分もやってたあたり、お前が言うなっていう声があの時投げられていた気がするよ。
「――よし、分かった。ひと肌ぬぐとするよ。ふうり、アンタのかーちゃんの写真を、ちょっと貸してくれ」




