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《第210話》『うすあじ』
「所長!」
「おおっ、ようやく――ッ! そろそろ自分の存在に疑問を持ち始めるところでした……」
「何の話だい?」
「い、いえいえ、なんでもありません。何でしょう?」
「何でしょうって――そんなんだから薄くなるんだよ……」
「そ、存在感が無いのは承知してますって!」
「違う、髪だよ!」
巨大なボウガンに射抜かれたような顔をしたが、そんなことはどうでもいい。今はそこに付け込み味方を増やす。流石アタシ、悪魔の血を引いてるだけはあるね!
「――ねぇ所長、知ってるかい?」
「しくしく――えっ、なんですか?」
心にダメージを負わせたところで希望を見せる。本来ならこう言う手は好きじゃないんだが、酒を飲むためならなんだってやってやる。
「桜の花の下で酒を飲むと、それはもう髪がわっさわっさと」
「え――」
ふふっ、怪しくても反応せざるを得ま――……、
「桜の花の下で髪が薄いヒトが酒を飲むと、より禿げ上がるって――」
「何? 誰がだい?」
「樹那佐君」
「おいィコーハイィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」




