《第209話》『は、花見大作戦を――ッ』
「なあ、遊。ちょっといいか?」
「――?」
書類仕事をすることなく、むしろ紙飛行機を作って遊んでいる遊に、声をかける。――何を飛ばしているのかは見ないことにする。
「花見、行かないか?」
「…………」
手を止め、無表情でアタシの顔を見つめてくる。考えているのか、声に反応しただけで止まっているのかわからないが、まあ、前者だろう。
「花見はいいものだよ! 舞い散る花びらに、心躍る気持ちになる!」
「飲みたい、だけ――」
くっ、バレてる! だけど、だからと言ってそれで諦めるアタシじゃない!
遊の懐柔は、狼山をこちら側に引きこむことにもつながる。なぜならあいつはアレで遊に駄々甘なところがあるからだ。この人形少女が行きたいと一言言えば、仕方ないなの言葉と共に腰を上げるに違いない。
「確かにアタシはそうだけど、遊は遊で、狼山と一緒に時間を過ごせる。違うかい?」
「いつも、一緒――」
「場所だけ考えりゃ、今もそうさ。けど、心はどうだ? あいつは書類、お前は一人で遊んでる。そうだろ?」
「…………」
俯き悩むその仕草は何とも可愛らしい。アタシにもああいう時があったと思うんだけどねぇ――。
「――ディア、花見、」
「あっ、おい遊お前ェッ!? その書類!?」
「ちっ」
「おい、アンタまさか――」
狼山に、無表情のまま引きずられていく遊。
彼女が残して言った書類を見ると、狼山が担当しているモノだった。




