《第208話》『これより花見酒大作戦を開始する! よ!』
「おっと、電話だ。ちょっと出てくる」
「はい。ちゃんと戻ってきてくださいね?」
「アタシをなんだと思ってるんだい――?」
コーハイにそう返事して、アタシは部屋を出る。黙って作業しているところで、携帯で会話をするワケにはいかないからね。
まあ、嘘なんだけどね! ――だが、他の皆をほっぽりだして花見に行くほどアタシも白状じゃない。これから、電話をかけるために。応援を呼ぶために部屋を出たのだ。
「さぁて、出てくれるかな?」
該当する番号を探し当て、コールする。まあ、この時間なら何かをしている最中かもしれないが、かといって切迫しているようなことでもないはずだ。
『もしもし?』
「呉葉ちん!」
よし。ノリのいい鬼神につながった。
コーハイをまずは引き入れるために、まずは嫁さんを懐柔することにする。彼女をその気にさせ、強く言わせることができれば、少なくともあのコーハイは拒否しにくくなるはずだ。
「呉葉ちん、ちょっといいかい?」
『いや、駄目だ。今は忙しい』
「――? 一体どうしたんだい?」
『今、だな。掃除をしていたら、視界の隅に黒くて素早くカサカサ動くおぞましき魔物が、だな――』
「お、おう――」
『だから、もう少ししてからかけ直しでゃぎゃぁッッ――――…………グシャッ』
「えっ、ちょっ――」
ものすごく嫌な音と共に、通話が途切れてしまった。携帯からは、「ツー、ツー」と言う妙に寂しくなる音が。
「――失敗、か」




