《第二百三話》『山無しオチ無し、けれども愛すべき平和と腐れ縁』
「み、見つけたぞ、諸悪の根源――ッ!」
「おお、てっきり気が付いていないのかと思ったぞ?」
「突然夜貴が隣から消えて、ついでに妖術の気配が残っておれば嫌でもわかるわ!」
現在の呉葉、乱入。ついでに鳴狐のお供の付喪神もだ。
「な、なんじゃ!? 狂鬼姫が二人じゃと!?」
「――鳴狐、話聞いてた……?」
「むっ、夜貴に駄狐! いつの間に名前で呼びあう仲になったんじゃ!」
「余はこ奴の名を呼んではおらんぞえ!」
「ふふふ、それはもう、仲のよさそうにしておったぞ?」
「浮気だー!? 浮気だぞ夜貴ァ!? しかもこんなしょうもない狐が相手とは!」
「誤解! 誤解だよ!」
「くぅっ、なんと言うことだ――! やはりこの身体か、この貧相なボディがいかんのか!」
頭を抱えうがーっと唸る呉葉。その隣で、狂鬼姫はそれはもうすごく楽し気に笑っている。
「鳴狐様、お怪我はありませぬか? あの人間に何かされたりしませぬでしたか?」
「うむ、余は何ともない。ただ――」
「ただ?」
「――いや、何でもない」
「おい鳴狐!? なんだその思わせぶりな言葉は!?」
「な、なんじゃ、騙くらかすことを得手とする余ではあるが、まだ何も言っておらぬぞえ!?」
「どうせ貴様が夜貴を誑かしたのだろう! 許さんぞ、この痴女め!」
「ほう、炎の弾を出したな! それは決闘の合図ととってよいのじゃろう? 今日こそ決着をつけてやるのじゃ!」
「もーっ! 二人とも落ち着いて!」
僕は止めにかかるが、二人はやはり聞く耳持たなかった。
――だけど、
以前ならそうは思えなかったであろうこの光景が、今はとても平和的に思えた。




