《第二百二話》『昔の様子も、きっとこんな感じだったんだろうなぁ』
それを聞いたとたん、「あ、やっぱり呉葉だな」と思った。
「ひ、ひひひ、暇潰し、じゃ、とぉ――ッ!?」
「うむ、暇潰し♪」
だが、今の呉葉とはまた違った雰囲気の、しかし心底楽しそうな笑顔。老獪な化け猫のようでもあり、無邪気な子犬のようでもあるその顔には、同じであり異なった様子を感じる。
だが、悪意は感じない。いや、それならそれで面倒臭い香りがするけど。
「いやはや、舞台を整えるためには苦労した苦労した。資金ゼロから旅館を立ち上げ、ネットのレビューに書かれる程度の特徴を作りつつ、ホームページを作成したうえでそこに妖術をかけ、喧嘩はあの老人を真似てトラウマ的なモノを見せて収めエトセトラ――」
「ま、まさか、旅館のあの不気味な女将も――」
「うむ。変化は得意とは言い難いが、それなりには出来ておったろう? ――と言うか、人間の夜貴ではなく妖怪の貴様が先に不気味だと言うのか……」
「なんでもよいわ! そんな事よりも貴様、よくも余をだまくらかしてくれおったのう!?」
「う、そ、そんなに強く言わぬでもよいではないか――」
「っ、す、すまん」
「――だなどと、精神的な年齢は老人もいいところな妾が今更生娘のようなことを言っても、騙されるのはお前のようなかわいそうな狐くらいだな」
「貴様ァ!?」
鳴狐の怒鳴り声に、狂鬼姫はかっかっか、と笑った。
その様子は、古くからの縁を感じさせるもので、僕はまた一つ二人の関係を知れた気がした。




