《第十九話》『平和なデート――になると思っていました』
「お弁当も持ったな? よし、では行くとしよう!」
確認を取った呉葉は、「牙跳羅」と名付けた愛車のエンジンをかける。
スイッチを押すだけでかかるエンジンは今の時代の車特有らしく、そして計器類はなかなかスタイリッシュであり、本当にこの車が150万だとは、いい意味で思えない。呉葉は、掘り出し物を見つける天才ではないのか?
「~♪」
ハンドルを握る彼女は、慎重がやや低めであることもあって、座席に高さを補助するモノを置いているが、その姿は意外と様になっていたりする。発進もスムーズで、割と運転がうまい。
鬼は人間よりも身体能力が高いが、この運転の安心度は、そこから来るのだろうか?
「ああ、夜貴。もし妾がド忘れした際は道案内は頼むぞ」
「地図はあるし、事前に道も確認したから大丈夫だよ」
住宅街を抜け、国道へ。僕は助手席に座って、呉葉や外を見ている以外にやることが無い。普段事務や妖怪を相手にしているときと違って、素晴らしく平和であるために、だんだんと眠くなってくる。
「む? 今にも眠ってしまいそうだな」
「ん――ああ、ごめん」
「構わぬよ。目的地に到着するか、途中で分からなくなったら起こしてやるからな」
その言葉を聞き届ける前に、僕の意識はだんだんと遠のいて行く。日頃の仕事疲れが溜まっていたのか、それとも運転が非常に穏やかだったのか。どちらにしろ、信頼できる妻の隣と言うのは、これ以上ないほどリラックスできる空間――
「っ、ぬおおッッ!!?」
ガ、シャンッッ!!
――僕の眠気は、呉葉の叫び声と突然横から発生した衝撃により、見事に霧散した。




