《第百九十七話》『異なる、と言う事』
「奴の白い髪、赤い瞳は、生まれつきであることを知っておるかえ?」
「うん。と言っても、話に少しでただけで詳しいことは聞かなかったけど」
白い髪に真っ白な肌から、そのまんま「幽霊」と呼ばれていたとまでは聞いたことがある。が、そこだけであり、もっと突っ込んだ話はしたことが無いのだ。
「余は母上に、人間の前ではこの尻尾は隠していろと言われた身じゃが――今考えてみるとその言葉はよく分かる。人間共と言うのは、己と異なる姿の者に同等の知能があるのを嫌う。その違いの度合いが大きければ大きいほど、その嫌悪は強くなるのじゃ」
「それって――もしかして、呉葉も……?」
「余も直接問いかけたことはない。が、いつも生傷の絶えぬ様子は、たびたび通りかかる貴族連中の視線を見る限りじゃと、まあそうじゃったろうな。1200年以上経った今でも、思いだしたくない記憶として焼きついているじゃろうのう」
「――でも、ちょっとでも年寄り扱いするとすぐに自分の白い髪を持ち出して冗談として流してくるよ? それに、割と堂々表歩いてるし。……立場的には自重してほしいけど」
「んじゃに? ヤツがそんなことを? そいつはまた、奇妙じゃのう。――って、立場がどうとか言いながら、貴様狂鬼姫の奴と共に今旅行に来ておるではないか!」
「それは――まあ、環境の慣れと言うか、なんと言うか……」
僕は睨みあげてくる九尾の狐に、乾いた笑いを返す。
だが、あの白い髪と赤い瞳に、そんな過去があったなんて。予想をしていなかったわけではないが、呉葉なら盛大な仕返しをした話が残って居そうな気もしたというのもある。
「まあ、そんなワケだから、ヤツは余に馬糞を浴びせると言うかぐわしい香り溢れる行為に」
「ヒトにどう接すればいいか、分からなかったんだね――」
だが、ここで僕は一つ思う。やはり、と思う。
「昔から、二人はそんな風に仲が良かったんだね」




