《第百九十二話》『その状態、悲惨につきモザイク入り(呉葉希望)』
「ふぁ、ふぁふぁふぁ、ふぉふふぃふぇふぉふふぁっふぁ――」
「な、何を言ってるのかわからない――」
相当辛かったのだろう。呉葉の唇は完全に真っ赤に腫れ上がり、言葉は何かを含んだまま喋ったかのごとくくぐもった声になってしまっている。――容姿端麗なだけに、モザイク必須かも。
「鳴狐様に仇名す者は、この侍渺茫が許さんで候」
「うん? 何かあったのかえ?」
「ふぶぶぅ――っ、ふぉふふふふぉふぉふぁァ――っ」
「きょ、狂鬼姫、流石の余もその顔は心配せざるを得んのじゃ――何が起こったんじゃ?」
「ふぃふぁふぁふぉふふぁふぉふぇふぃふぁ!」
一応、知略に優れた九尾の狐の娘であるので、何も知らないフリである可能性も否めないが――なんとなく、アレは素のような気がする。
「しかし、狂鬼姫がこのようなうまい店を知っているとは、これは負けていられんのう侍渺茫!」
「左様で候、鳴狐様」
「よって、余も事前に調べさせた店の情報を貴様に教えてやろう!」
九尾の狐・鳴狐は、すごく楽しげな様子で先の道へと進んでいった。一方の侍渺茫、一瞬こちらを見てニヤリと笑う。どうやら、あの付喪神の仕業だったらしい。忍者か。
「ふぉ、ふぉふぉふぇえええええええっっ!! ふふぃふぉふぉふぉ、ふふぃふぉふぉ!」
「何言ってるか分からないけど大体わかるよもうやめたほうがいいよ――!」
これ以上は、逆に呉葉がやられる未来しか見えなかった。あのしもべの方が確実なのに、いつの間にかイジワルのことを忘れている九尾の狐よりも有能に見えるのだ。
――だが、
「ふぃふぃふぁ! ふぁんふぉふぃふぇふぇふぉ、んぐっ、あの駄狐に地獄を見せてやるッ!」
すっかり呉葉は、頭に血が上っているようだった。




