《第百九十一話》『唐辛子』
「ほ、ホントにやるの――?」
「この妾、狂鬼姫・呉葉は、仇名す者に容赦するつもりはない――ッ!」
「おお、これがその名物であるうどんじゃな? なるほど、出汁の香りからして素晴らしいのう。人間にしてはやるものじゃ」
カウンター席で、順々に計四人分の素うどんがそれぞれの前に置かれる。一見目を輝かせ期待に満ち溢れている九尾の狐に対し、呉葉はギラギラとした様子で相手が仕掛けてくるのを待ち構えていた。
作戦はすごく単純なもので、呉葉が手をつけようと細工する寸前に、僕が何かアクションをとると言うモノ。突然のそれに、直前までうどんに注目していたところから視界が外れ、その隙に落下する唐辛子を転移させると言うのだ。――単純だけど、タイミングがシビアすぎるよ。
「ずるずる――っ、ふむ」
「…………」
「ほう、ずるずる――っ、ふむふむ」
「…………」
「ずずっ――んまいっ!」
「…………」
「なるほど、前情報に偽り無しじゃったな!」
「何勝手に食べきっているんだ貴様は!?」
「ふぇ?」
まるで隙が無い――と言うより、そもそもそんなそぶりを見せない、もとい、完全に食べることに集中していた。
「うん? 貴様は食べんのか? だったら余がいただいてやろうかのう?」
「誰がやるものか! これは妾のうどんだっ! ずるずる――っ、」
「…………」
「んぐっ、」
――次の瞬間、まるで炎を吹かんばかりに呉葉は悲鳴を上げた。




