《第百八十九話》『騙し合い』
「――ホントについてきてるけど、どうするのアレ……?」
「あいつめ、本気で妾の夜貴を誘惑と言うたわけたことを実行するつもりか――?」
呉葉は後ろの九尾の狐をちらちらと見ながら、苛立ちを全く隠そうとしなかった。かく言う僕も、流石に呉葉との時間を邪魔されているのは腹立たしい想いだ。
「ふふっ、侍渺茫。隙を見てだな、この唐辛子の粉の塊を料理に投入してだな――」
「それは汁物以外には――」
しかも、企みごとを話しているのがまる聞こえだし。いろんな意味で、何を考えているのかわからない。あれで本当に知略に長けたことでも有名な白面金毛九尾の狐の娘なんだろうか――。
「――夜貴、こちらは内密で話し合いをしよう」
「うん――?」
一方、隣の呉葉はあえて耳打ちせず、声のボリュームをかなり絞って相談を持ちかけてきていた。ウチの鬼神の方が、よっぽど知恵が回っているような――。
「当然だが、妾としてはあのまま奴らをついてこさせたくはない。このままでは、折角のデートが赤色に染められてしまう。主にトウガラシで」
「それは――僕もちょっとごめん被りたいね……」
「そこでだ」
呉葉は後ろにばれないように、目の前の空間に穴を作って見せた。
「こいつを使う、と言うのはどうだ?」
「さ、さすがに、露骨な嫌がらせは可愛そうじゃない――?」
「何を言うか。奴は敵だぞ? ただ、合図をしたら視線をそらせてくれるだけでいいのだ」
「ま、また、無理難題を言うね――」
「なぁに、アイツほどの間抜けはそうはおらん。簡単に余所見してくれるはずだ。頼んだぞ?」




