《第百八十八話》『前 途 多 難』
「――で、今日はどうするの?」
「特に考えていない。もとより、計画などに縛られたくない旅行だからな」
流石に、一晩経てば持ち直したらしい。――と言っても、布団の中で僕を死ぬほど痛い腕力で抱きしめながら震えていたのだが。本当に何を見たんだろう。
「つまり、その場の気分ってことだね」
「うむ。さしあたって、妾としては無性に近所で食べ歩きをしたいところだが」
「朝食さっき食べたばかりじゃないか」
「――ぶっちゃけ、喉を通らなかった」
訂正。今朝まで震えていた。
「ぬははははははははっ! 狂鬼姫、よくもまあ布団から出てこられたもんじゃのう!」
「――ついでに、アイツの存在を忘れていた」
「おはようで候」
「あなたもいたんですね――と言うか、その朝の挨拶はすごく違和感だらけなんですが」
「中途半端に現代の言語を学んだ故で候」
「ふん、九尾め。そっくりそのまま同じセリフを返してやろう」
「余は貴様と異なり、頑強な精神をもっておるのじゃ。誰の助けが無くとも、立ち直って当然じゃ」
「怖かったことは否定しないんだ――」
「それで、何の用だ? 妾達は忙しいのだが? 昨日の続きならするつもりはないぞ?」
「くははっ、それもそれで悪くはないのう。が、残念ながら今現在にそのつもりはない」
「ほう?」
「なぜなら、余もまた旅行中! 故に、これから美味いもの巡りをしようとしておったしだいじゃ!」
「――つまり?」
九尾の狐は、ニヤリと口元を歪めた。呉葉じゃないけど、彼女がその笑みをすると何故だかすごく残念な香りがする。
「この余、藤原 鳴狐! これより貴様に同行する! のじゃ!」




