《第百八十六話》『鬼神と九尾の恐怖』
「もう許さん! その無駄に巨大な脂肪の塊と共に、この地上から屠ってくれるわ!」
「やれるモノならやってみるのじゃ! 下等な鬼ごときに、この大妖狐の血を引きし余が破れると思うて――」
ま、マズい。僕はすっかり臨戦態勢の単細胞二人を見て、この状況をどうすれば切り抜けられるか思考を巡らせる。腐っても両者ともとても強力な妖怪。本気で暴れたりなどすれば、このぶっちゃけあまり消えても惜しくはない旅館が大変なことになってしまう。
――結果。止める方法なんてありません。
「おお? そんなナマクラソードで何をしようというのだ? それではキュウリすら切れなかろうに?」
「貴様のその炎は、煙草に火をつけるために起こしたのかえ? 随分と貧相じゃのう? 貴様自身の身体と同様に」
「なにおう!」
「なんじゃ!」
互いに罵り合い、遂に衝突する。呉葉は炎を纏った拳で、九尾の狐は手に持つ剣で。
力が交差した瞬間、周囲にはその余波が放たれる。瞬く間に、建物は破壊され――、
「あれ――?」
と、大災害の発生すら覚悟したのに、何も起こらず辺りには静寂が漂っていた。
「お客様方ぁ」
「っ!? 女将!?」
「な、なんじゃ!?」
「旅館内での暴力沙汰はぁ、おやめ、くださぁ~い――……」
なぜなら、女将さんが両者の腕を掴んで止めていたのだから。




