《第百八十五話》『飛び火は避けられないみたいだ』
「呉葉ぁ、機嫌なおしてよぉ」
「ふん!」
別に、あの九尾の狐の肢体に心奪われていたわけではない。ただ、一人の経験少ない男として、赤面することは止められなかった。だからと言って、それを強く主張するつもりはないが。
「ぐ、く、ははっ、はははははっ! 狂鬼姫、余はまだまだ健在じゃぞ――っ!」
「しつこい奴め――っ!」
と、部屋に戻ろうとしているその後方から、九尾の狐の満身創痍な様子を含んだ声が聞こえてくる。
それにしても、彼女がどうしてここに居るのだろう――。
「くくっ、しつこくて当然、貴様には殺生石を返してもらわねばならぬからのう! そして、その方法にも気が付いた!」
「何――?」
「いったい何――うわっ!?」
「っ、貴様!?」
廊下のど真ん中で、突然風呂上がりに着る浴衣の前を広げる九尾の狐。その下には何もつけていない。
「ぬははははっ! 貴様の弱点、それはそこに居る男! すなわち、そいつを誘惑し、余の虜とされることは最も望むまいことじゃろう!」
「まさか――」
「そうじゃ、そのとおりじゃとも! 余の母がその美貌と肢体で多くの男を惑わしてきたように、その男の視線を余に釘付けにするのじゃ! それが嫌ならば、おとなしく殺生石を渡すのじゃな――!」
「くっ、この痴女め! 顔を赤らめるくらいならそんなハレンチなことをするでないわ!」
――呉葉はそうやって言うけど、君も君で結構大概なことをしてると思う。うん。




