《第百八十三話》『解きほぐされる心』
「まあ、お前がそんな反応を見せるのは分かっていたし、それでいじる気も多少はあったのは認めよう」
「認めるんだ――」
「しかし、それ以上に妾としては、こう言うふれあいも楽しみたかった。久しく、こうゆるりと長い時間を二人で楽しむことができなんだしな」
「そうは言いつつ、毎夜毎夜僕を抱き枕にしてるじゃないか――」
「くふふっ、そう細かいことを気にしておると髪の毛がなくなってしまうぞ」
「そ、それは――まだちょっと、勘弁してほしいなぁ……」
きっと僕の髪の毛がなくなっても呉葉は変わらない愛情を注いでくれるだろうが、それとは関係なしにこの年での薄毛はあまり歓迎出来ない。
「それはそれとして、だな。今更言うようであるが、妾は嬉しいぞ」
「えっ、な、何が――?」
「世間の常識的に言って、妾のこの体は魅力的とは言い難いからな。しかし、それだけ動揺してくれると言うのは、欲情してくれていると言う証でもある」
「…………」
「別に、これはからかいたいわけではない。ただ、やはり愛情を感じていてはいても、一人の女として見られているほうが、愛した『男』に『女』である以上喜びを感じるに決まっている」
「…………」
いつもはそう言うネタでからかうクセに、そう言う時は僕を真正面から見てくるのに、今日のこの時だけは、寄り添い頭を預けてくるのみだった。
呉葉の身体が熱い。そんな気がした。お湯の中だからきっと錯覚なのだろうが、そんな風に感じてしまうのは――。
「呉葉」
「なん――っむぐ!?」
気が付いたら、僕は呉葉に口づけをしていた。
「――っぷは、と、突然された、ら、妾とてびっくりするではないか……」
「ご、ごめん、なんだか無性にそう言う気分に――」
「そ、そうか。そうか、うむ――。な、なあ、その――、」
「な、何――?」
「その、な? も、もう一度――」
「う、うん」
なんだか、変な気分だった。だけど、悪い気分では決してなかった。
細くて小さいけど、とても触れ心地のいい呉葉。こうして密着していると、とてもドキドキして、愛おしくて。
――ちょっと、駄目かも。
「ふむ、なかなか大きなところじゃなばらだんばァっ!?」
と言ったところで、入り口の方から何とも間抜けな声と床に叩きつけられるような音が聞こえてきた。
この声は――……。




