《第百八十話》『遭難しないだけマシであろう?』
「ハァ――、ハァ……ッ、――っ、ハァ……」
「どうしたぁ、もうへばったのかァ――っ」
ハイキングコースって、こんなに過酷なモノだっけ? 僕は角度45度の斜面を登りながら、本格的に山登りでもしているのではないかと言うこの状況に疑問を持っていた。
でも、文句を言いたいのはそれだけでなく。
「だって、さぁ――おかしいよね?」
「別に、急な斜面くらいあってもおかしくはなかろう」
「――まあ、そこは百歩譲ってありだとするよ? けどさ……」
「うん?」
「なんで3月だっていうのに、周囲が一面の銀世界なんだろうね?」
「…………」
「…………」
「さて、どんどん先へと進もうではないか」
「聞かなかったことにしないで欲しいな!? すこぶる寒いよ!?」
「いや、まあ――この季節にハイキングコースで雪が降り積もってるなど、おかしくもあるが」
「でしょ!?」
「だが夜貴、現実はこの通りの雪景色なのだぞ? それを認めるべきではないか?」
「富士の山頂でもないのに認めたくない――っ」
とはいえ、歩かなければ何も変わらないだろう。この過酷さ、やっぱりハイキングの枠を超えていると思うんだ。
そう、旅館でゴロゴロしていたほうがずっと良かったこの状況にため息をつこうとした、その時だった。
「――? 今、何か聞こえなかった?」
「凍死した人間の霊の声か?」
「怖い話は暑い時にしてね!? ――そうじゃなくてさ、こう、獣が叫ぶようなもっと荒々しいと言うか……」
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーッッッ!!!」
「で、出たぁーっ!? 雪男だァーっ!?」
僕達の目の前に、全身が長く白い毛でおおわれた、ゴリラのような化け物が姿を現した。




