《第十七話》『突然の――』
「ところで夜貴、次の休みはいつごろになる?」
「へ? んー、なんだか、所長に明日から一週間休んでいい、相当なことでもない限り呼び出さないからって言われたけど――どうして突然?」
ちなみに、平和維持継続室の個人の休日は、国家機関であるにもかかわらず所長の任意だったりする。基本的に職員が申請すればいつでも休みをとれるが、夜貴の場合は、家にいるときに緊急で呼び出されたくないために、いつも通い詰めなのだ。
「ふっふっふ――そうか、そうか」
「――?」
呉葉が、いつになく分かりやすい笑い声を上げた。まるでそうなることが分かっていたかのような、計画通り、と言ったような――しかし、その目はどこかその先を見据えているように思える。
「よし、夜貴ァ! 明日旅行へ行くぞ!」
「へ、明日ァッ!?」
突然、などと言う生易しいものではなかった。
「い、いきなりすぎるよ!? 準備も何もしてな――」
「なに、荷物は既に詰めてある」
「ええっ、海外!?」
「ハワイだぞ、ワイハーだぞ! 誰もが羨む南国だぞ!」
「微妙に認識が古いよ!? だいたい、何で突然!?」
「『何で』、だと――?」
「う、うん――」
「貴様が休み一切取らぬせいで、『新婚旅行』なるものを一度も行っていないのだぞ! ただでさえ、祝言もまだあげていないというのに――ッ」
「血涙!? い、いや、でも、僕の仕事は妖怪からヒトを助ける仕事だから、そんな遠出するわけにも――というか、お金は大丈夫……?」
「うっ」
喉を詰まらせたような声を出したかと思うと、呉葉はそれきり黙りこくってしまった。
――やっぱり、お金はピンチなようだった。




