《第百七十八話》『捕食者と被捕食者』
「ふむ、ここが妾達の部屋だな。――おお、夜貴! 窓の外を見てみよ!」
「いい景色でも見えるの?」
「お墓だ!」
「定番のネタをありがとう、すごくいらないよ!」
そんなこんなで、僕らは旅館の一室にたどり着いた。いろんなところがボロボロな廊下や入り口だったが、以外にも宿泊部屋の中はまともだ。窓の外以外は。
「あちらのお墓はぁ、とある有名なお方のモノなのですよぉ~?」
「うわぁ!? 何でまた耳元で囁いてくるんですか!? ――そうなんですか?」
「はぁい、あれら全ては、さる資産家の、毎回不審な死を遂げる夫人方のお墓達でぇ~すぅ~……」
「『お方のモノ』ってそういう意味なの!? と言うか、絶対にその資産家のヒト黒いよ! 真っ黒だよ!」
「うむうむ、今日もツッコミがさえわたっておるな。それでこそ、妾の認めし漫才師」
「実は口裏合わせてからかってない!?」
僕がそう言うと、呉葉と女将さんは顔を見合わせて首を傾げた。わざとらしいとも、そうでないとも取れる微妙な様子で。――まったく、もう。
「こちら、お夕食のほうはぁ、十八時ごろとなっておりまぁす――。大浴場の温泉の方はぁ、零時で締め、翌朝六時に開けることとなっておりますのでぇ、ご注意くださぁい……」
「ここの旅館には、部屋一つ一つにも露天風呂が付いていると聞いていたが?」
「大浴場のほうではぁ、いろいろな形式の温泉が楽しめるようになっておりまぁす――。それらをお楽しみいただく方はそちらへぇ、プライベートでお楽しみいただきたい方はぁ、各部屋のをお使いいただく、皆さん、そのようにされておられまぁす。こちらの方にはぁ、時間制限はございませぇん……」
「うむ、了解したぞ。夜中に汗をかいて、入ることもあるやもしれんしな」
「なぁるほど、要するにお布団の方は一つでよろしいということでございますねぇ?」
――? ええっと、つまりどういう……?
「うむ。二人で一つを使う所存だ。じゅるりっ」
「――すみません、二人分しっかり用意していただけませんか?」




