《第百七十七話》『不気味なお宿においでませ』
「たのもーっ!」
「道場じゃないよ! すみませーん!」
昼間だと言うのに薄暗い玄関。流石に観念した僕も、奥へと向けて声をかける。
それにしても、本当に幽霊屋敷そのモノだなァ。壁もあっちこっち剥がれかけてるし、置物もボロボロだし。廃墟と言ったほうが、しっくり――、
「いらぁ~っしゃいませぇ~~~~…………」
「うわあああああああああああああああああァァッッ!!?」
普通に前から現れたのなら、僕は驚かない。なんだかんだ、これでも退魔を生業としているわけであるし。
――だけど、流石に不安を書きたてるような声色を耳元で聞かされては、叫ばずにはいられない。
「む、そこにいたか女将。世話になる」
「な、なんでそんなところにいたのォッ!?」
「ふぅふぅふぅ~~……周辺の掃除をしておりましたぁ、お待たせしてぇ、もうしわけございま、」
「…………」
「せぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん――……」
まるで葬式に出るかのような真っ黒な和服で、青白い顔をした女性。長い黒髪は後頭部で纏められており、その姿は小ぎれいな印象を受ける。
しかし、独特なイントネーションの口調や全身から放たれるオーラのおかげで、お世辞にも世話になりたいとは思えなかった。とりあえず、旅館の女将よりもお化け屋敷のスタッフの方が適任。そう思わせるヒトである。
「お荷物はこちらにぃ、まずはぁ、お部屋にごあん、なぁ~~い、しまぁ~す――……」
――僕、精神的に二泊三日の間持つのだろうか?




