《第百七十六話》『なんか、あそこ人魂浮いてない? えっ、気のせい? あれ――?』
「よし、着いたぞ夜貴っ!」
「ここが――って、え? ホントにここ?」
夜貴は我が目を疑った。ナビシートから眺めたその景色。想定していたモノは、大きな駐車場、賑わう人々、大きな建物だったが――、
「うむ、ここで間違いはないぞ。ここが、妾らが暫く厄介になる旅館だ」
「ど、どうみても、幽霊屋敷なんだけど――」
大きな建物であることには間違いない。一見するととても巨大な日本家屋で、階層自体はそれ程なくとも、奥行きがとてつもない。
が、単刀直入に言えばボロボロで、いつの間にか曇ってしまった薄暗い雰囲気も相まって、今にもひゅ~どろどろと人魂が漂いそうな光景なのである。
――呉葉には悪いが、冗談以外の何者にも見えなかった。
「まあ、幽霊屋敷然としていることは否定はせぬ。なにせ、出るらしいからな」
「やっぱり曰く付きじゃないか!?」
「普段よりそう言う者を相手取っているヤツが今更何を言うと言うのだ――っ! ま、まあ、資金の関係でかなりケチったことは否定せぬが……」
「もー……」
「と、とはいえ、温泉自体はとても評判だと聞き及んでいるぞ! ほら、ネットのレビューを見てみよ! スマフォにページを出したから!」
「えっと、なになに――? 『もーサイアク、金縛りにあった!』『枕元に血塗れの女のヒトが! 怖い、もう来ない!』『女将さんがユーレイ!』エトセトラ……」
「――な?」
「これほど不安しか煽られないレビューもそうは無いよ!」
「なぁに、住めば都、泊まれば天国。ゆくぞ、夜貴よ! 妾達の戦場へ!」
「ツッコみ切れない! わ、わ、ストップ! 担ぎ上げないでよ!?」
そうして、僕はそのまま幽霊旅館へと連行されてしまった。
とりあえず、お約束をつぶやくことにする。のちのち、まさかあんなことになるなんて。




