《第百七十五話》『運命とは、己の手で切り開くモノである』
「お、ようやく動きだしたな」
「あはは、追突もなかったね」
「その事故が起こるのを期待しているような態度はなんだ!?」
「そ、そんな事ないよ、無いって! 毎回毎回お約束気味だけど!」
飛ばすほど空いているわけではないが、かといって進まない程でもない。そんな状態で、車が走り始める。
「…………」
だが、アクセルを思いっきり踏めないことに、呉葉はどこか不満げに見える。いや、踏んだら踏んだで、速度違反なんだからやめてほしいけども。
ここは、向いている意識の方向を変えたほうがいいかもしれない。
「それで、どう言う旅行だったっけ?」
「計画を見ただろう? 温泉旅行だ。宿の予約までしっかりと取ったぞ」
「いや、そうなんだけどさ――温泉旅行って言われても、何するのかわからなくて」
「ふぅむ、なるほどな。まあ、夜貴は仕事人間だからな。娯楽に縁のない、悲しい人生を歩んできたゆえに、知らなくとも当然か」
「こっ酷く罵ったね!? というか、普段あまり構ってあげられてないから拗ねてる!?」
「つーん、拗ねておらぬもーん。――で、温泉旅行とは何をするか、だったな」
「うん」
「何のことはない。ただ温泉に浸かったり、割り当てられた部屋ででろーんと寝ころんだりするだけだ。名物をいただいたり、近くの名所によるのもよいな。だが、やはりメインはダラダラとのんびり時間を過ごすことだ」
「それだけ、なの――?」
「なんだかんだ、最近の夜貴はつかれているようだったからな。――ま、まあ、妾が行きたいついでに、それを考慮しただけだ」
「呉葉――」
こう言う気づかいは、やっぱり呉葉らしいと思う。ついでとは言いつつも、割合的には多めに、僕のことを考えてくれた旅行計画であるように思う。ちょっと赤みの差した可愛らしい顔が、何よりの証拠だ。
「――呉葉、ありが……ッ、わ、前!?」
突然、前を走っていたトラックの荷台から斬りだされた丸太が落ちてきた。紐を荒々しく引きちぎって迫りくるそれは、まるで巨大なハンマーのようですらある。
「や、やっぱり、事故る運命なの!?」
「ぐっ、ぬおおーーっっ!!」
だが呉葉、丸太を避ける避ける。その際、僕の身体の全身を強烈なGが襲うが――、
「くっ、ふふっ、ふふふ――ッ、はははははっ、くははははははっ! どうだ、もうこれ以上事故など起こさぬぞッ!」
全てを無傷で避けきり、見事負のジンクスを断ち切った呉葉の満足げな表情を見れたことを思えば、大した痛手ではなかった――ッ! やったね!




