《第百七十四話》『何度となく見た光景』
「――妾はこの状況にあるモノを感じる。そう、それはデジャヴだ」
「あはは――今日は追突されないといいね……」
車でかっ飛ばした先には渋滞が待ち構えていた。どうやらハイウェイラジオによると、この先で事故があったらしい。
「逆に考えれば、もう少し早かったら巻き込まれていたかもって、思ったほうがいいかもね」
「ううむ、前向きだな夜貴――まあ、車での旅行でのこう言う事態も、ある種醍醐味と言えなくもないか。ゆっくり話でもしながら、進むのを待つとしよう」
「そうそう、イライラしたって何もいいことないもんね」
「時に夜貴、今日はなんの日か知っているか?」
「今日――? 3月3日だったよね? ううん……?」
「ふっ――男のお前にはわからなくとも無理はなかろう。今日はな、女子の日ひなまつりだ!」
「――女子? おばあちゃ」
「さて、この渋滞状況だとステアリングから両手を離したとしてもなんの問題もないわけだが?」
「暴力反対! ――でも、いくらなんでも『子』っていうのは無理があるんじゃ?」
「さしもの妾も、そこまで若いつもりはないぞ。ただ、折角だからと用意してきたモノがあるのでな」
そう言うと、呉葉はその小さな身を後方に乗りだしてハンドバッグを引っ張りだしてきた。その中から、さらに何やらビニール袋を取り出す。
その中には、色鮮やかなあられが入っていた。
「ひなあられ、つくってみたぞ♪」
「うわっ、すごい――きれいだね! 食べてみてもいい?」
「うむ、そのために作ってきたのだからな」
と言うワケで、早速僕は呉葉の作ってきたひなあられをつまんだ。時間が経っているはずなのに、香ばしい風味が口の中いっぱいに広がる。しかし、一つ問題が。
「うん、おいしいよ。おいしい。うん、そうなんだけど――」
「んむ? どうした?」
「ちょっと中身が香ばしすぎやしない?」
相変わらず、気合を入れると調理したものの内側がやたらと焦げるようだった。




