《第百七十二話》『旅行計画』
「夜貴、旅行へ行こう」
藪からスティック。呉葉が、突然そんなことを言いだした。何かのパンフレットを持って。
「いきなりどうしたの?」
「どうしたもこうしたもない。妾達、共にどこかへ出かけたことはあったが、旅行という形での泊りがけはなかったはずだ。――無かった、よな?」
「無かった――うん、無かったよ」
「――夜貴、今妾のことを耄碌したババアを見るような目で見ただろう?」
「このやり取りは天丼だよ! しかもセルフ! ボケたの!?」
「やっぱり見ているではないか!? 妾は若い、若いままだぞ! 平安時代から!」
それは、本当に若いと言えるのだろうか? とものすごく言いたかったが、これ以上言うと――これも、何度思うのだろう? きっと、一生やるかもしれない。
「――それでだ、ひとまずそれはさておき。旅行の計画は、既に妾が練っておいたのだ。それで、後は確認してもらおうと思ってな」
「えっ!? でも、泊りがけなんでしょ?」
「うむ。二泊三日だ」
「む、無理だよ――僕だって仕事あるし、一日だけならまだしも、三日間なんてそんな、いきなり言われても」
「安心しろ。ハゲ頭の所長は、妾の妖力を込めた毛生え薬で買収してきた」
「いつの間に!? で、でも、皆に迷惑かけるわけには――」
「ディアも狼山も、随分軽いノリでおっけーしたぞ」
「――遊ちゃんは?」
「なんかボルシチ撒かれた」
「お、怒られるよ? 主にロシアのヒトに」
「妾に言われても知るものか。汁物なだけに。――今のは座布団三枚行けるな」
「呉葉は呉葉で、落語家と笑点の観客・視聴者に集団罵倒されるよ――?」
――けどまあ、これだけ楽しみにしていてそこまで確認をとってくれたのだ。いつの間にそんなことをしていたのかはわからないが、その努力を無碍にすることもないだろう。
「――よし、行こうか。旅行!」
「うむ、そうでなくてはな!」




