《第百六十九話》『人形の手』
「やべぇな――」
その日突然の襲撃を受けた俺は、デスクに隠れて銃弾をやり過ごしつつ呟いた。
そうしながらも、手は勝手にリボルバーに弾薬を補充する。よもや、配属三日目にして突然の襲撃を受けるとは思いもよらなかった。
「遊――」
俺はこのあまりにマズい状況の中、ふと本部に置いてきた人形少女の顔を思い浮かべる。
俺は、肉親を事件によってなくしている。そんな中で、久しぶりに明確に触れ合ったのが彼女だった。だからだろうか? 遊には、どこか家族にも似たような気持ちを抱いていた。
だから、正直言って寂しかった。一時は妹ができたようなそんな気分だっただけに、仕方ないとはいえ離れている時間が多くなってしまった。
しかしその一方で、この現状を見てほっとしている自分も確かにいた。そうとも、本部で安全に守られていたほうが、あいつのためであると。こんなところに連れてこなくて正解だったと。
「よォし、ロケットランチャー持ってこい!」
「――っ」
不穏な敵の幹部の指示、そして身動きのとれない俺。俺はこの瞬間、絶対的な死を覚悟した。
確かに、つれてこなくて正解だった。遊を、こんな物騒なことにはまきこみたくない。だが、それでも――、
最後に顔を見られない。そんな悔しさは、どうしてもかき消しきれなかった。
「撃て――っ、な、なんだ!? ぐああああっ!?」
「――っ!」
敵の幹部の悲鳴が上がる。同時に、下っ端共の混乱の声も上がる。いったい何だ、増援でもやってきたのだろうか?
俺はそう思い、恐る恐るデスクの上へと顔を出し、状況の確認をした。
無数の糸でその場の戦闘員たちを拘束する思誓 遊の姿が、真っ先に目に飛び込んできた。




