《第十六話》『小柄な少年と小柄な鬼』
「――しかし、妾は安心したぞ」
「僕は全然安心できないよ! もう電車乗れないよ!? 二度と消えることのないトラウマが刻み込まれたよ!?」
「いや、それは災難だったとは思うが、お前がまともな一人の男であるということがまた一つ理解できたからな」
「なよなよしてても男です!」
どれだけ男らしくなかろうと、ほっそりしていようと、誰が何と言おうとも僕は男です!
「そうは言ってもだな? 恥ずかしがるばかりで、隣で眠っていても全く手を出してこないから、てっきりそっちの気があるものばかりだと、妾は心配しておったのだぞ?」
「僕はいたってノーマルだよ! そもそも、恥ずかしがってるという時点で気が付いてよ!?」
「何を言う。女子とて、気の小さい奴は同性相手でさえスキンシップを恥ずかしがるぞ?」
「と、ともかく! 僕は普通だからね! 決して、男が好きとかそういうことはないよ!」
「あまり必死に否定すると、逆にそれを肯定しているようにみえるのだが?」
「しつこいよ呉葉!?」
と言っても、本気でそう思っているわけではない、というのは、彼女のニヤケ笑いを見ればわかる。時々すごく楽しそうに意地悪をしてくるのだ、この鬼は。
――たまには、仕返しをしたいところだ。
「く、呉葉――」
「む? なんだ、そんなに改まって」
「そそそ、その、今夜あたり、その――こ、子作り、を……」
「なんなら、いま玄関でするか?」
「いいいいや、やや、やっぱいいよ!」
「ふふ、妾に勝とうなど百年早い」
――永遠に、そんな日は訪れなさそうだった。




