《第百六十七話》『懐かれた一匹狼』
「あのー、遊さん?」
「――?」
「首が重いんですけど――」
先日ターゲットの屋敷から保護した人形の少女、いや、少女の人形か? どちらと言うべきか分からないが、ともかくそんな彼女が、いつの間にやら俺の首にまたがっている。他から見れば肩車をしているように見えるかもしれないが、生憎とそんなつもりはない。
「別に、俺についてなくてもいいんだぜ? 自由と言うほど自由じゃねぇが、建物内なら好きに歩きまわれるはずだろ?」
「…………」
「無言じゃわかんねぇって――!」
ちなみに、関節部を除いて彼女の身体は人間の感触とほぼ同じだ。そのため、こうやって間足られていても固さで痛い、などと言うことはない。ただ、首は結構凝る。実に三日連続でまたがられると。
「お、狼山。今日も遊と一緒か」
「好かれることは悪いことじゃねぇが、どうしてそんなに俺にひっつきたがるのか不思議だぜ。おい遊、ディアの方が超常現象とかそう言うのに詳しいから、何かあっても対処できるぜ? あいつと一緒にいたほうが、何かと安心なんじゃねぇのか?」
「酒臭い」
「確かに、それは嫌だな」
「珍しくしゃべったと思ったらなんで罵倒されなきゃなんないのさ?」
ディアはそう言うが、遊の気持ちは分からなくもない。確かに、あれと居ると要らん臭いが付きそうだ。が、それにしたってここは地方じゃなく本部なんだし、他にも人員はいる。だいたい、俺は俺で結構煙草臭いはずなんだが?
「――わかんねぇなぁ」




