《第百六十六話》『アンデッド・ドール』
俺、狼山 駿也が思誓 遊と出会ったのは、とある資産家の暗殺任務を受けた時だった。
「な、に、人形が――!?」
「…………」
これでも、隠密行動にはとても自信がある。だから、部屋へと忍びこんで突然動きだしたそれには死ぬほど驚いたものだ。
だが、勿論ここで本当に人形だと思っていたわけではない。そもそも俺は人間を担当する平和維持継続室所属のハンターであり、そんな力を必要とはしていなかったためだ。
そして、俺はその少女に向けて銃を構えた。佇んでいるときは本当に器物にしか見えなかったが、生きている人間に見られたとあれば、機密のためにもそうするしかなかったのだ。
――だが、
「――っ、おい!?」
「…………」
少女は、俺が引き金を引く前に、ぱたりとその場に倒れた。
「だ、大丈夫か、しっかりしろ! おいっ!」
「…………」
返事の無い、死人のように冷たい身体。肌の色は青白く、生き物の気配すらない。しかし、それ以上に――、
「球体関節、だと――?」
ゴシックドレスのスカートから覗くその足を見て、俺は思わずそう呟いた。
――それが、生きた人形「思誓 遊」との出会いだった。




