《第百六十三話》『真犯人はお前だっ!』
「ええっ、僕ゥ!?」
突然狼山先輩に指さされ、僕は困惑する。――いやいやいやいやいや!? 困惑どころの騒ぎじゃないよ!?
「夜貴――お前、なんと言う……」
「み、身に覚えがないよ!?」
「コンナコトスルコナンテオモイマセンデシター」
「ディア先輩まで!?」
「樹那佐君、人殺しはよくありませんよ――」
もはや、犯人がこれから連行されるような雰囲気に。だが、ちょっと待ってほしい僕は本当に何もしていないのだ。と言うか、普通に狼山先輩が生きている以上、人殺しでもなんでもない。
「まあ、いきなり犯人と言われても、分からねぇだろうな」
「当たり前ですよ! 何が一体、どういうわけなんですか!」
「つまり、こう言うことか。痛々しい狼山ごときがチョコをもらっているという非現実を見るに見かねた夜貴は、その結果を本人ごと抹殺しようと――」
「なるほど、確かにこの夏でも冬でも季節感なく気取った黒いロングコート野郎がバレンタインにチョコ貰ってたら、そりゃあ現実ってモンが許せなくなるよな」
「じょ、情状酌量の余地がありますねぇ――」
「全くこれっぽっちも一つとしてつまようじの先に乗った塩の結晶ほども思って無いよ!? いや、そう考えるとその通りだけど!」
「待てお前ら全員ヒドくうげぇええええええええええええええええええええええっっ!!」
狼山先輩は口を押さえうずくまった。しかし、出てきたのは糸を引く唾液だけで、それ以上は出てこない。
「――で、僕が犯人ってどう言うことですか? 納得いかないんですけど」
「まあ、これから説明するとこっ――げふっ、するところだ、黙って聞け」
狼山先輩は、死人のような青い顔をし、口元を拭いながらそう言った。




