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《第百六十二話》『誰も消えてなどいない』
「い、一体どうなって――!?」
「さ、探せぇ! 探さなければ、死体がなければ罪は成立しないぞ!」
呉葉の怒号と共に、全員かなり強く動揺しながら狼山先輩の遺体を探し始めた。いきなり死体が消えるなんて冗談じゃ無い。
――と、全員でくまなくトイレを探し終えたその時だった。
「そ、その必要は、なっ、ない、ぜ――っ!」
狼山先輩が、トイレの入り口で真っ青な顔をして立っていた。
「ひっ、お化け!?」
「ち、ちげーよぉ、ぐっ、うえっ――」
「おい、誰だ最初に死んでいるとか抜かしたヤツ! 生きているではないか!?」
「――多分、呉葉だったと思うんだけど」
ともかく、そんなことはどうでもよかった。行き絶え絶えながらも狼山先輩が生きている。その事実に、僕らは結構本気で安堵しているのだから。
――と、
「は、犯人、は――っ」
狼山先輩は震える手を握りしめてから、人差し指を立たせ、それを目の前へと向けてから、高らかに宣言した。
「犯人は――てめぇ、だっ!!」




