《第十五話》『男も危険なのです』
「ただいまー……」
「おお、戻ったか夜貴――ど、どうした? 何か顔色が悪いぞ?」
どうやら、僕はそれ程にまでよろしくない顔色をしているらしい。心配させぬよう、なるべくそれを悟られぬようにしたつもりだったが――失敗したようだった。
「いや、ね――電車の中で、ちょっと、ね……」
「む! 妾の夜貴にド失礼な事をした酔っぱらいにでも絡まれたか!? どこの誰か名前を言え! 呪い殺してやるから!」
「どこぞのノートじゃないんだから――! というか、違うよ!」
取り決めのことがあるのに、呉葉は僕が誰かに何かされたと聞くや、突然周りが見えなくなる傾向がある。ありがたいことではあるが、もう少し自分の身を考えてほしい。
「――ならば、何があったというのだ?」
「ねぇ、呉葉は電車に乗ったことある?」
「む? 残念ながら、妾は電車と言うモノに乗ったことが無いな」
「そっか――じゃあ、信じられない間違いをされたことは?」
「無くはないが――お前の言いたいことは、きっとそう言うことではないのだろう。一体、何があったんだ……?」
「はは――うん、僕、どう見ても男だよね?」
「少々細身だが、まあ、間違えようもないな」
「――僕、電車の中で、さ、
がたいのいい男のヒトに痴漢された……」
「…………」
「…………」
「むぅ、まあ――頑張れ」
「何を頑張れって言うのさ!?」




