《第百五十六話》『ハッピーバレンタイン!』
「夜貴、こいつをくれてやる!」
「えっ、何?」
夜貴はきょとんとしながら、妾の差し出したラッピングされたそれを見る。――この世間一般行事にものすごく疎い非常識人め。わざわざ言わねばわからぬようだな。
「ふふっ、今日はバレンタインデーだ。お前に、妾からの手作りチョコをプレゼントしてやる」
「バレンタイン――えっ、あ!」
「よーやく理解したようだな。こういうモノは初めて作ったから、うまく出来ているかどうか分からんが――早速食べて見てくれ」
箱を丁寧に包んだピンク色の紙を、夜貴もまた丁寧に開けていく。そうして現れた白い箱。蓋が明けられると、その中にはハート型にかたどった一口大のチョコレートが、いくつも現れた。
「わあ、すごっ!? これ、本当に呉葉が?」
「うむ。ミルクチョコレートだ。本当は、我らの間に赤子がいればよかったのだが――」
「赤ちゃん?」
「そうすれば、牛乳ではなく母乳をだな――」
「ぶげほァッ!? そ、それはかなりニッチな嗜好じゃない!?」
「ははっ、冗談だ、冗談。――半分ほど、な」
「鬼の君は時々恐ろしいこと考えるね――」
夜貴は呆れつつも、チョコレートを口にした。実は何パターンかのフルーツのエッセンスが入っているのだが、それがちゃんと効果があるとよいな。
――だがひとまず、
感想を聞く前に、こいつの幸せそうな顔を、この幸福な気持ちと共に眺めているか。




