《第百五十五話》『3』
「それでさ、今日遊ちゃんがさ――」
「あの娘も相変わらずよなぁ」
さて、準備は完璧。いろいろマズりもしたが、何とか完成にこぎつけた。そのせいで夕食が少し遅れたが、まあ予定の範囲内。喚起もしたし、車もぶつけなかった。
「あ、お醤油ないや。冷蔵庫に継ぎ足しの分はあるよね」
「うむ」
「入れてくるね」
「うむ」
…………。
「――じゃない、ちょっと待て夜貴ァ!」
「え?」
妾の目には、既に冷蔵庫の扉を開けている夜貴。こちらを振り向き、しかしまだ中を見てはいない。さて、どうする。
1.適当な話をして誤魔化しつつ食卓へリターンさせる。
2.見られてもよいと諦める。
3.ああっ、手が滑ったァ!
…………。
妾は――、
「ああっ、手が滑ったァ!」
生来の性格もあり、考える間もなく「3」を選んだ。
「えっ――あがっ!?」
――要するに、気が付いたら手元の空の醤油の小瓶を投げていた。
「きゅぅ~……」
「――気が付いた時には手遅れだった。許せ」
と、一発で意識のとんだ夜貴に謝罪する。――ううむ、我ながらナイスピッチング……起きたらもう一度ちゃんと謝ろう。
――当然、明日のサプライズに関することは伏せて、な。




